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ときはながれる

20年ほど前、日本人として初めてTBSの秋山氏がロシアの宇宙船で宇宙へ行った日、私もまたモスクワにいた。

当時はまだソビエト連邦という共産主義国で、ちょうどゴルバチョフ書記長がペレストロイカを推進している最中であった。私のモスクワでの滞在先はベーデンハーという地下鉄の傍のコスモスという大きなホテルだった。ホテルの部屋からは目の前の大きなモニュメントが見えた。それは曲を描いて空につきささるロケットのようなもので、あたりいったいには緑が茂り、大きな公園となっていた。後で知ったのだが、そこは宇宙記念公園だった。夏には落ちない太陽が輝き、明け方の3時ごろにようやく薄暮につつまれる。ロケットのモニュメントは黒いオブジェとなり、夕焼けの空にコントラストを作る。それもつかの間また陽は昇った。白夜だった。
モスクワは全てが巨大だった。ホテルもだけれど、立ち並ぶアパートメントも地から生えるようにニョキニョキと建っていた。人もまた大柄な人ばかりで、私は巨人の国に迷い込んだか、あるいは自分が小人になってしまったような錯覚を感じた。
共産主義国のソビエトは、保障があるのでホームレスはいないと世界にアナウンスしていたが、実際には地下鉄近くの地下通路には多くの人があてもなく座っていた。物がない時代だった。ショッピングセンターのショーケースにはほとんど品物がなく、レストランに行っても1時間も2時間も待たされてようやく料理が出てきた。地下鉄は5カペイカ(日本円で5円くらい?)一枚を入り口に投入すれば、どこまでも乗ることができたが、ロンドンの地下鉄にも匹敵するような深い深いエスカレータを降りていった先に来た列車は帝政ロシア時代のもののような骨董品で、駅に停車するたびにただでさえ暗い車内の灯りは消えたりついたりを繰り返した。ペレストロイカが始まっていたとはいえ、街中でいつKGBに見られているかという不安はあったので、めだった行動をとることは控えていた。それでもジーンズをはいているだけで、ソビエトの人たちとは違ういでたちであり、彼らにとってはアメリカの服装をした西側の珍しい東洋人であることは否めなかった。国全体でアメリカ資本主義への傾倒がみられ、ルーブルはほとんど価値を持たなかった。観光地には白タクがいて、米ドルでの支払いを条件に客を拾っていた。白タクはホテル近くに来ると先にお金を受け取りまるで友達を乗せてきたかのように振舞って、去っていった。全て裏と表があった。
ホテルの部屋でチップを置く習慣はなかったが、掃除をしてくれたおばさんにはストッキングをあげたり、ボールペンをあげたりしていなければ、持ってきたものが少しずつ無くなっていく。日本では薄手の、足がきれいに見えるストッキングが上等とされるが、彼らがほしがるのは厚手で丈夫などちらかといえばタイツのようなストッキングだと言われた。だいたい私のサイズのものが大柄のロシアの女性にはけるかというと難しいようだったので、多分どこか闇市みたいなところで売り払われるのだろう。
そんな中だったのに、宇宙開発は先端を行っていたというのが今考えても不思議な気がする。

その後私は秋山氏と同じフライトで日本に戻った。日本ではお祭りのような騒ぎで、秋山氏はひっぱりだこだった。少しのちに毛利氏が本格的に宇宙飛行士として宇宙を体験した。宇宙にいつかはみんないけるのではなどと考えていたのではなかったろうか。

ほどなくして、ソビエト連邦は崩壊し、昔に戻ったようにロシアという国になった。もともと斜陽だった社会保障はまったく無くなり、日本としてもウラジオストックといった極東にカップラーメンなどの食料品を人道上の援助として行っていたが、それらのものを奪い合うようにしていた人々の映像は今でも目に焼きついている。

そして、9月18日の今日、日本のHTVは宇宙ステーションへのドッキングに成功した。かつて自前では行けずソビエトの宇宙船に乗って行った宇宙へ、今度は自前で行けるかもしれないという。日本では自民党の政治は終わり、新しいスタイルを目指そうとする民主党政権となった。社会保障をうたった国は資本主義へと歩み、そして今度日本は福祉国家を目指すという。

不思議なめぐり合わせと全てのものが留まることなくよくも悪くも変わっていくことに、この20年という年月の流れを感慨深く思われる。

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