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モスクワ外伝

私がモスクワのホテルに到着した夜、部屋に1本の電話がかかってきた。
"Hello.."
ホテルでは英語が通じたし、ロシア語はほとんどわからなかったのでそうやって受話器をとった。きこえてきたのはロシアなまりの英語だった。誰?知らない。低い男性の声で「私はロシア人です、あなたは日本からのお客さんでしょ、僕は日本で勉強したいので日本のことを教えてくれませんか?」そんなことを言い出した。よく考えたらこれは内線の気がする。ということは、私が部屋にいることを知っていてかけてきたのかも知れないと思い、やんわりと断った。「ごめんなさい、私疲れているから。」そう言って電話を置いた。何しろソビエトなのだ。相手を怒らせるとどんなことになるかもわからないと思ったら、怖くなった。いったい誰なのだろう、ホテルの従業員なのだろうか。

「調子はどう?もう疲れはとれた?」名乗りもしない彼は優しげな声で翌日の夜にも電話してきた。「ごめんなさい、時差でもう眠いの。勘弁して。」そういって私はその日も電話を切った。そしてその次の日も彼は電話してきた。「もう、十分きみは眠ったでしょう?」「いいえ、私はまだ時差ぼけでどうも調子が狂っているの。」そういうと彼は、「そんなこと言って、君は明日帰ってしまうんじゃないの?ねぇ、僕は君を愛してるんだ。」

"No thank you!!"といってガリャリと乱暴に受話器を置いた。ばかにしてる。我慢に我慢を重ねてきた私は"I love you "という言葉を聞いて初めて彼は男娼だとわかった。外国人の男性の部屋には「ナターシャ」と呼ばれる娼婦からよく電話がかかってくるときいていたからだ。怒らせてしまったかもとちょっと不安にかられたけれど、彼からの電話は出発までなかった。

モスクワのことを思い出して、ついでに彼のことも思い出した。でも今考えると、彼は男娼ではなかったのかもしれないなどと、ふと思う。男娼であれば「ねぇ今晩僕と楽しく遊ばない?」などと言えばいいのだから。そう思うと本当に私を見かけたホテルの従業員か誰かが、遠い日本を夢見て電話してきたのだったのだろうかとさえ思えてきた。会ってもいないひとに"I love you"はないだろう、とは思うが、気の迷いということだってあるので、実は本当に友達になりたかっただけなのかも知れない。

ソビエトという、日本とはかけ離れた社会システムの中での、どうにも変えられないストーリー。
今はただ、昔のこと。”ダ スピダーニャ”。思い出は遠いモスクワの空の下に。


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